昼過ぎから徐々に曇り始めた空は、1日の最後に行われるHRが終わるよりも前に地に向い雨粒を落とした
雨の所為で教室内がざわつく中、4組の担任である本田一ノ介(25歳、9月21日生まれの乙女座、担当教科は日本史)の話が終わった
俺、二宮春瑠は席を立ち、荷物を持って…といっても楽器と楽譜の入ったクリアケースだけだが…静かに教室を出た
「春瑠」
「ん? ぁ、久司」
生徒で溢れ返る廊下を、久司と並び歩く
同じ教室で、同じ授業を、同じ先生から教わっている筈なのに、久司のカバンは俺のそれよりも悠に重そうだ(というよりも、俺が軽過ぎるだけだが)
「春瑠は今から部活?」
「そー 昨日貰った楽譜、指取りしないとねー 久司、部活は? 休み?」
「今日はナシ だから家帰って料理でも作ることにするよ 最近、全然作ってなかったから……ぁ、凌」
「どこ? ぁ、ホント」
「しのぐー」
「…ヒサシ、ハル」
俺と久司の前方を歩いていた凌はゆるりと振り返った
左手に折り畳みの傘を持っている辺り、凌らしいと俺は密かに思った
視線を隣に向け、久司が傘を持っていないなんて珍しいこともあるもんだと驚いた(いや、だからこそ雨が降ったのかも…)
「久司、傘は?」
「え、あ、そういや降ってるんだっけ…この前の雨で折り畳み、持って帰ったんだよ」
「なら、俺の貸す 2本持ってっから」
「2本?」
「教室と部室に なんか気づいたら2本になってた」
あー…と、久司と凌は口を揃えた
「今、持ってるから……どーぞ」
「どーも じゃあ、有難く借ります」
「どーいたしまして お礼はチーズケーキでいいよ」
「はいはい」
「ウソだから」
「はいはい 傘、マジでサンキュな じゃあ」
「また明日 部活頑張って」
「おーっす」
荷物を持っていない方の手をへらっと挙げて久司と凌を見送る
2人が傘を差して歩き始めた頃、俺も部室へ行こうと足を踏み出した
その時、前方に見知った影を2つほど見つけた
「ぁ、はるはるだー」
……なにか聞こえた気がする が、何も聞いてない
……なにか見えた気がする が、何も見てない
「ちょ、はるはる 無視とかひでぇ」
タッと加速した足音に、はぁ、と溜め息をつく
廊下に響き渡る隼人の声に、周りの生徒は一瞬、こちらを向いたが、それすらもう慣れたことだ
「俺ははるはるじゃない」
「えー、はるはるははるはるじゃんかあー」
「春瑠、いい所に!! じゃあ、あとはよろしく」
「おいこら待て湊都」
隼人が俺の元へ駆け寄った事を確認するや否や、帰ろうとする湊都を引きとめる
湊都は少々不満そうだが、ここで彼に帰られるわけにはいかない
「ねぇ、はるはるー」
「……2人でなにしてたか聞いて欲しいんだろ?」
「え、心読んだ?!」
「読めないから そして、やだ ぜったい聞いてやんねー」
「ちょ、ひどっ!!!」
「まあ、春瑠なら聞かなくても分かるだろうけど」
「どうせ、雨降ってるから湊都に家まで送ってーとか頼んでたんだろ」
「さっすが、はるはる!!!」
湊都、御疲れ様 とアイコンタクトを取る
あー疲れた、といった返事が返って来る
「つか、お前、仮に俺と一緒に車で帰ったとして、自転車どーすんの?」
「だいじょーぶ はるはるに送ってもらうから」
「はぁ? なにそれ、聞いてねー つか、俺、とばっちり」
「えーお願いお願い一生のお願い ちゃんと漕ぐから、俺が漕ぐから!!!」
「……もう勝手にしてくれ そしてそんなことで、一生のお願いとやらを使うな」
「やったぁー ってことで、みな、送ってー」
はぁ、と重たい溜め息を俺と湊都が同時にしたのは言う間でもない話
「じゃあ、俺、部活行くから」
「まったねー はるはるー」
「またな」
「おう、湊都、またな」
「ちょ、はるはる 俺!!俺は!!」
「あーはいはい またあしたー」
後方で隼人がぎゃーぎゃー何か言っていたが、後は湊都に任せよう(おいこら by.湊都)
同中って恐ろしいなぁ、と心の中で呟きながら、俺は部活に向った
「帰ったら湊都の愚痴メール、来てるかなぁー…」
まぁ、逃げた分と同等の対価は支払うつもりだけど
<2008.10.20 お粗末さまでした>