「そういえば、ミナトとハヤト達ってさ、中学から一緒だよね?」
休み時間に遊びに来たと思ったら、俺の前の席に座り、いきなりそう訪ねてきた凌に俺は首をかしげた。
「そうだけど。」
「だよねー。」
俺がうなずくと、そう言って凌は一人考え込み始めた。
さらに、オレとヒサシは高校からでーなんて何かを確認するように呟く。
何なんだ一体?
「おーい、しの。」
「ひどいとは思うんだけどねー。」
「は?うん。」
「ちょっと疑問に思ったんだー。」
「何を?」
「なんでミナトがハヤトたちと同じ高校受けたんだろうって。」
よくハヤトがミナトと同じレベルの高校受けれたよねー、って思ったんだ。
さっきね、ハヤトが数学の答え聞きに来たんだ。
なんかね、今日当たるんだってー。
教えるのはいいんだけどね、それ以前にハヤトノート取ってないの。いつも寝てるんだって。
でもテストで点は取ってるんだよね、ハヤト。要領がいいのかな?
そんな凌の言葉を聞きながら、俺はさっきの質問をぼんやりと考えていた。
なんで同じ高校?どういう意味だ?
俺とあいつらがつるんでいるのが変ってこと?俺がここにいるのが変ってこと?
「あのね、ミナトって頭いいじゃん?」
質問の意図が分からず悩んでいた俺の考えを遮り、凌は俺に確認するように話し始めた。
「おまけにおぼっちゃんじゃん。」
「まあね。」
「肯定しちゃうんだ。」
「否定したって突っ込むんだろ?」
うん、とあっさりと頷いて、凌は俺の机に広げてあった数学の答えを確認しながら、
だからね、と続ける。
「もっと私立の有名校に行ってたとしてもおかしくないなーって思ったの。」
「へえ。」
「だから、なんでここに来たんだろうって。まあ結構進学校だけどね。」
ハルはともかく、ハヤトが入れるのが不思議なくらいに。そうあっさりと凌が言った。
凌は、どうやらさっき隼人に勉強を教えるのがよほど困難だったのか、いつもより隼人の扱いがひどい。
御苦労さま、そう笑ってやると、意味がわかったのか、うん、がんばったと声が返ってくる。
ミナトも苦労したでしょ、中学時代、といわれて湊都はしばし考え込む。
「・・・そんなでもないと思う。凌ほどではないかな?」
「ふーん、意外。迷惑掛けられまくってたと思ってたのに。同士だと思ってたのに。」
答えると、不機嫌そうにそう返され湊都は笑う。やはり今日の凌は隼人がとことん憎いらしい。
こりゃなにか機嫌取りした方がいいぞ、とあとで助言でもしておこうか。
そんなことを思いながら、中学時代をぼんやり振り返る。
はると、バカと、俺。いつもつるんでバカやって。
俺が作戦考えて、二人が特攻。先生に捕まりそうになり馬鹿を囮にしたこともあったっけ。
あの時のあいつの泣きそうな顔は笑えた…。。
さらりと酷いことを考えながら、他の思い出を振り返る。
どういうきっかけでつるむようになったんだっけ。今度はるにでも聞いておくか。
そんなことを思いながら、湊都は共に過ごした日々を数える。
もうきっかけなんて思いだせない。それこそ小学生、幼稚園のころから知っている気もしてくる。
・・・、知らないうちに俺の家族とも仲良くなってるしなー。
高校受験の日を思い出して、くっくっとひとり笑う。
いきなり笑い出した湊都を見て、なになに、どしたの?と凌が覗きこんでくる。
「あー、そうだった・・・。」
「なにが?」
「ん、いや、受験の日、俺だけ早かったんだよね。」
特進だから、と付け加えると、凌もああ、そうだったね、と思い出したようにうなずく。
「でさ、俺もやっぱり不安だったわけよ、受験。」
「ミナトが?」
「そう。」
へー、そうだったんだ。全然余裕に感じてたんだと思った、という凌の驚いた顔に苦笑いしながら、
俺だってそりゃ緊張するっての、と返す。
本命校であり、特進を受験する生徒の中に自分の知り合いはいなかった。
例え模試の結果が良くても、人生がかかっている試験でへまをしない、わからない問題などない、と思えるほど湊都も強くない。
帰り道、電車の中で友人と答え合わせををしている他校の生徒の声を聞きながら、
自分と違う答えが出てくると泣きそうになった気持をはっきりと覚えている。
「ただいま・・・。」
湊都がそんな不安な気持ちを抱えたまま帰宅し、自室の扉を開けると、
「「おっかえりー。」」
と、湊都の部屋でまるで自宅のように寛いでいる二人がいた。
春瑠と、隼人である。
「・・・ただいまって・・・はぁっ?!」
思わず落としてしまったカバンが床にぶつかりガンっと音を立てる。
状況に追いつけず、戸を開けたまま固まってしまった湊都をみてけらけらと隼人は大笑いした。
そして、淡々と春瑠がここまでの経緯を説明しだした。
「勉強してて、わかんないとこがあったーってこいつが俺んち来て、
で、俺もわかなかったから湊都んとこいこうってなって、あ、あいつ今日受験じゃん、
どうしよ、自宅でまっときゃ帰ってくるか、ってことになって。」
「みなのお母さんに家に入れてもらって、待ってたってわけ!!」
ケーキも出してもらっちゃったーー!!という嬉しそうな声を聞きながら、
湊都は怒り以上に力が抜けていくのがわかった。
「おまえらさあ・・・。」
「うん。」
「ふぁひ?」
もごもごとフォークを加えながら答える隼人にさらにため息をつく。
おまえは何しに来たんだよ、ケーキ食いに来たのかよ…。春瑠も雑誌読んでるし…。
試験以上に疲れを感じ、湊都は壁にもたれながらずるずるとその場にしゃがみこんだ。
「俺、今日受験だったんだよ。」
「そうだな。」
「しってるよ?」
「じゃあさ、今日ぐらいは気を遣っとこう、みたいな気にはならなかったのか?」
湊都にそういわれ、きょとんとしながら二人は顔を見合わせる。
そして、あろうことか
「「ならなかった。」」
などと返してきた。
さすがに普段から仲がよく、彼らの行動パターンは把握していると思っていた湊都にもこれは予想外で、
そんな二人の行動にさすがに湊都も苛立った。
唇をぐっと噛み、声を荒げようとした瞬間、隼人が口を開いた。
「だってさ、みなが不安になることあるわけないじゃん。確実に受かってるんだし。」
「・・・は?」
「だーかーら、みなが落ちるわけないって言ってんの!!」
でしょー、と至極当前のことのように言う隼人に湊都は再度固まる。そして隼人は再びケーキに向き直る。
湊都、口閉じろ、間抜けだぞー、という春瑠の一言によって湊都は慌てて口を閉じる。
そして、自分たちがどれだけのことを言ったのか分かっていない二人に聞き返した。
「どっからきたわけ、その結論。」
「勘かなっ?」
「勘じゃなくって、確信。湊都が落ちるわけがないって。」
「そーそー。」
「「だって湊都だし(!!)」」
頬が熱くなってきたことが湊都自身にもよくわかった。二人の湊都に対する絶対的な信頼。それが素直に嬉しかった。
くっそ、こいつらは・・・っ!!
言った本人たちは自分たちがどれだけ凄いことを言ったのか理解していないらしい。
相変わらず一人はケーキに夢中で、もう一人も他の雑誌に手を伸ばしている。
勉強はどうしたんだよ、と呆れたが、湊都の中の帰ってきたときに抱えていた不安はとっくに消えていた。
もう不安なんてない、こいつらが大丈夫というなら、信じてみよう。
「あれー、みな真っ赤じゃん。」
「照れてんだって。」
「黙れふたりともっ!!!さっさと勉強するぞっ!!!!」
えー、という不満の声を無視して湊都は楽しそうに教科書を広げた。
「と、まあこういうことがあったわけ。」
「仲良しだねー」
恥ずかしいことは省き、自宅で寛いでた二人までを説明すると、机に顎をのせながら凌はそう言った。
ちげえし、迷惑だっただけですー、なんていっても、いいじゃん仲良しさん、などとさらりとかわされる。
反論の言葉に詰まり、目の前にある凌のふわふわした髪の毛でしばらく遊びながら、湊都はぽつりと呟く。
「やっぱさ・・・。」
「ふぇ?」
「どっかであいつらと一緒にいたいって思ったのかもな。」
「うん?」
「さっきの質問。」
なんでこの高校選んだのかってやつ、と付け加えると、ああ!と納得したように凌が頷く。
そして、さっきと同じように仲良しさんだねーとのんびり言った。
ちょうどチャイムが鳴り、じゃ、戻るね。といって席を立つ凌におう、と答える。
次の授業なんだっけ、とぼんやり思いながらさっきの会話を振り返る。
結論
俺は思った以上にあいつらが好きなようです。
設定捏造しすぎキャラ違い過ぎ。