おはよう。            
     
     
     部活のみんなとお揃いで作ったエナメルカバンに弁当とペットボトルを詰め込む。
     教科書と弁当などでパンパンになったカバンはかなりの重さがある。

     やっぱ重い…。
     
     毎朝のことながら久司は苦笑いした。
     基本的に教科書を学校に置くということを久司は考えない。
     おかげで毎日登下校はかなりの運動だ。

     ま、今日は比較的教科書少ない日だから軽いかも。
     
     そんなことを考えながら靴を履く。茶色の髪も後ろで一つにまとめる。
     電車と徒歩通学の久司は家を出る時間がほかの四人より早い。

     「いってきます!」

     カバンを肩にかけ、家族に聞こえるよう言ってからドアを開ける。
     
     うん、今日もいい天気。
 
    
     
     
          
     改札を抜けてバス乗り場に向かう。
     学校までの停留所はたった二つだが、凌はバス通学を選んだ。
     徒歩は疲れるからいやだ、というのが言い分だ。
     
     でも、これはちょっと…。
     
     小さくため息をこぼす。
     残念なことに乗る予定だったバスは満員で、座席などとうに埋まっていた。
     
     二度寝して電車一本遅くしたのが間違いだったなあ。でも、次のバスじゃ遅刻だし。
     
     もう一つため息をついて、バスに乗り込む。
     隙間を見つけ滑り込み、近くにあった手すりをつかんで一息つく。
     電車、バスとも満員に乗るのは夜更かしした体にはきつい。
     
     今日は絶対隼人に近寄らない!疲れる!!
     
     隼人が聞いたら泣きそうなことを凌は固く心に誓う。
     
     まあ、無理だとはわかってるんだけどね。
     
 
    
     
     楽譜と筆箱だけ詰め込んだカバンがかごの中で音をたてる。
     教科書はもちろん机の中に置きっぱなし。
     背にマンドリンのケースを背負い、春瑠は軽快に自転車を漕ぐ。
     
     登校が楽な季節になったなー。
     
     秋の風を感じながらふとそう思う。自転車登校は季節の変わり目がよく分かる。
     夏と梅雨の時期はめんどくさかったなーなどと考えながら登校中の友人たちに挨拶をしていく。
     そこをちょうどバスが春瑠の横を通り抜ける。
     
     ということは…。
     
     自転車をこぐスピードを速める。
     いつも通りなら、あれは凌が乗っているバスで、久司も自分の少し前を歩いているはずだ。
     自然と笑みが浮かんでくる。
     
     さあ、きょうはみんなでなにをしようか?
     
     
     

     
     歩いている生徒たちを湊都は車の中から眺める。
     入学してから湊都は車で送迎されている。基本一人だが、雨の日は隼人を拾ったりもしていた。
     
     あー、やっべ眠い。あと学校までどんくらいかかったけな…。
     
     信号で止まっている車の中でそんなことをぼんやりと考える。
     しかし、ふとみた歩道で信号待ちをしているある人物と目が合い、湊都の意識は覚醒した。
     向こうも湊都の姿を確認したらしく、自転車にまたがりながら満面の笑顔で手を振ってきた。
     無視を決め込んでいると、なにやらうっすらと声が聞こえた。
     窓を閉め切っている車の中にも聞こえるほど大声で相手は湊都の名前を叫んでいるらしい。
     ほかの生徒が笑っているのが見える。

     あんにゃろう・・・!!
     
     信号が変わり、車が動き出す。
     学校が近付き、春瑠、凌、久司の三人が仲良く歩いているのも見える。
     
     どうしてやろうか、隼人のやつ。
     
     口もとに黒い笑顔を浮かべながら、湊都は車を降り三人に声をかけ、さっきあった出来事を話す。
     もちろん、隼人にどう仕返しするか決めるためだ。
     
     俺を怒らすとどうなるかわかってんだろ、隼人?
     
     
     
     
     
     湊都に無視され少し膨れながら隼人は自転車をこいだ。
     
     ま、予想はしてたけどさー。
     
     湊都が反応してくれないことは予想していたが、やはり悲しい。
     隼人的には少しでもいいからかまってほしかった。
     さみしがり屋だということは自分でも自覚している。
     
     いいや、凌と久にいはかまってくれるだろうし。
     
     正確にいえば、凌には一方的にからんでいるだけなのだが、隼人には関係ない。
     力いっぱいペダルを踏み、自転車のスピードを上げる。
     リュックのように背負ったカバンが揺れ、寝癖のついたままの髪が跳ねる。
     正門が見えてきて、近くに四人が歩いているのが見える。
     自然と楽しくなってきて、隼人は笑みを浮かべる。
     
     よっしゃ!
     
     突撃するように、さらにペダルをこぎ、叫んだ。
     
     「みんな、おはよう!!」
     
     
     
     待っていたのは湊都と春瑠からの容赦ない攻撃だった。